レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

夕映え天使



浅田次郎氏は長編小説から歴史小説、エッセーに至るまで多くの作風を持っていますが、個人的には浅田氏の手掛ける短編集がもっとも好みです。

そんな短編集の中の1冊が本書であり、6作品が収められています。

  • 夕映え天使
  • 切符
  • 特別な一日
  • 琥珀
  • 丘の上の白い家
  • 樹海の人

当然のように期待に胸を膨らませながらページを開きますが、その期待を満足させてくれる作品ばかりです。

個人的には、期待しながら読み始めたベストセラー作品にがっかりしてしまう経験が少なくありません。

その点「浅田次郎+短編小説」という組み合わせは鉄板の面白さです。

この短編集で私の感じたテーマは、ずばり"オヤジ"です。

団塊世代を筆頭とするだけに中年から初老に差し掛かった男性の姿は街中に溢れており、彼らはバブルを頂点とする高度経済成長期の担い手でありましたが、一方でファッションや音楽シーンの最先端からは程遠く、インターネットに代表される情報化社会にもうまく適応できていない傾向があるため、私のように団塊ジュニア以降の世代から見ると、(失礼ながら)"時代遅れ"になりつつ世代といった印象があります。

このような世代間のギャップは大昔から繰り返されたきたことであり、人生の先輩から後輩へ言いたいことも同じくらいあるということも充分に認識していますが、本書にはそんなオヤジたちの物語が綴らています。

夕映え天使」、「特別な一日」、「琥珀」にはオヤジたちが今の時代を生きる姿が、ときおり悲哀を垣間見せつつも、そこには充実した半生を過ごしてきた円熟さと共に描かれています。

一方で「切符」、「丘の上の白い家」、「樹海の人」には、オヤジたちの少年、青年期の過去が綴らています。とくに「樹海の人」には浅田氏が自衛隊に所属していた若い頃の経験が綴られており、興味深い作品です。

そんな"オヤジ"たち世代の特徴は、(個人的な状況は別として)戦後の貧しい時代、そしてバブルの絶頂期という"底辺"と"頂点"両方の時代の空気を経験してきているということです。

浅田氏自身も幼少期は裕福な家庭で育つものの、やがて破産し親族の家に預けられて育つことになります。その後も大学受験に失敗して自衛隊に入隊し、除隊後は自ら会社を経営そして倒産するという起伏の多い人生を過ごしています。

そのため小説家として初の著書が刊行されたのが40歳過ぎという遅咲きの作家として知られています。

経済的にはパッとせずとも経済大国となって久しい日本に育った私から見ると、それはある意味羨ましく感じる部分でもあり、世代を超えて共感せずにはいられないのです。