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新選組始末記

新選組始末記―新選組三部作 (中公文庫)

幕末をテーマにした本の中で新選組は、坂本龍馬と双璧をなすほど数多く取り上げられています。

新選組が活躍した寺田屋事件は明治維新を1年遅らせたと評されることがありますが、結果的に彼らが歴史の帰趨を握ることはありませんでした。

にも関わらず新選組が絶大な人気を博する背景は、もちろん"判官びいき"も要因に挙げられますが、何と言っても個性豊かで魅力的なキャラクターが数多く登場するという理由が大きいと思います。

本ブログでも歴史小説、伝記、検証本など新選組を扱った本をおそらく10冊は紹介しているはずです。

ただし新選組の本を執筆するにあたり、すべての作者たちが参考にしたであろう本が今回紹介する子母澤寛氏の「新選組始末記」です。

本書は昭和3年に初刊行されています。

当時から新選組はよく知られていた存在でしたが、剣豪や忍術といった講談のように多くの創作が付け加えられた状態であり、それを嘆いた著者が旧幕臣や新選組隊員の子孫たちを直接取材し、また文献を整理、調査して本書の発行にこぎ着けたのです。

この昭和初期という時代は、高齢ながらも新選組隊員たちを直接知る人たちが存命していたほとんど最後の時期であり、彼らの回顧録がいかに貴重であったかを窺い知ることが出来ます。

本書では新選組の結成から完全崩壊まで、つまり試衛館時代の近藤勇にはじまって函館で土方歳三が戦死するまでを時系列に、多くの関係者の回顧録とともに紹介しています。

その内容も非常に分かり易く整理され、1つ1つの出来事にその出典が示されている上、諸説ある場合には著者が一番有力と思われるものを指摘してくれる丁寧さです。

また驚くべきことに、本書に掲載さているエピソードは、私自身がほとんど過去に読んだ記憶のあるもので占められている点です。

それだけ多くの作家、あるいは作品が子母澤氏の作品を参考にした証であり、彼の業績が無ければ後の時代にこれだけ新選組が注目されることも無かったと断言できます。