新選組物語
「新選組始末記」、「新選組遺聞」に続く、子母澤寛氏による新選組三部作の完結編「新選組物語」です。
著者はシリーズ1作目の新選組始末記で冒頭を次のように書き出しています。
歴史を書くつもりなどはない。
ただ新選組に就いての巷説漫談或いは史実を、極くこだわらない気持で纏めたに過ぎない。従って記録文書のわずらわしいものは成るべく避けた。
これは半分本音、半分謙遜といったところで、実際には多くの旧幕臣の古老や隊士の子孫へ取材を行い多くの文献を丹念に調べてゆき、なるべく創作や誇張を排除して新選組の真実へ迫るという真摯な態度で一貫されており、新選組を知る上で金字塔という評価を得ることになります。
しかしのちに子母澤氏の本業は小説家となり、実際に歴史を物語として書くことになるのです。
そして彼は同じ年に生まれた吉川英治氏らとともに日本の歴史小説というジャンルの黎明期を切り開き、大衆文学へと成長させる功績に寄与しました。
本書に収められているのは取材によって語られた回顧録ではなく、小説家として変貌を遂げた子母澤氏による完全な歴史小説です。
しかも前述したように長年の取材や研究に裏打ちされた歴史小説だけに、どの短編作品も完成度の高い、同じように新選組の短編小説を集めた司馬遼太郎氏の「新選組血風録」に勝るとも劣らない名作揃いです。
それもそのはずで司馬氏は新選組の作品を執筆するにあたり、子母澤氏へ作品を引用する許可や新選組に関する教えを請うたというエピソードがあるくらいです。
新選組ファンであれば本書も間違いなく外せない1冊です。