レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

けもの道の歩き方


著者の千松信也氏は、京都で運送業をしながら猟を行うパートタイマー猟師の暮らしを営んでいます。

猟師といえば銃を担ぎ猟犬を引き連れているイメージがありますが、千松氏は銃を用いないわな猟、その中でも伝統的な"くくりわな猟"を専門にしているそうである。

ただし本書は猟の手法を解説した専門書ではなく、著者の猟師としての日常の紹介、野生動物の解説、そして自然へ対する接し方や考え方などを幅広く取り扱っており、限りなくエッセーに近い内容になっています。

最近では人里に出没するクマやイノシシ、シカ、サルなどが環境問題として取り上げられますが、この対策を単純に増えすぎた野生動物を駆除することで解決しようとするのは間違っていると指摘しています。

山林のすぐそばにまで開発された住宅地も要因になるでしょうが、最近では山間で耕作放棄された畑、管理されないまま放置された山林が動物にとって都合のよい活動エリアになってしまっているのが最大の要因であると著者は考えているようです。

昔の人は集落を囲むような大規模なシシ垣を築いて野生動物から田畑を守ってきた歴史があり、そもそも昔からこうした生き物は日本人にとって身近な存在であり、本来の生息数へ回復傾向にあるに過ぎないという見方もできるようです。

ただしシカなどの天敵であり、かつて日本の山林において食物連鎖の頂点に君臨していたオオカミが明治時代に全滅したため、古来から続く日本本来の生態系が壊れてしまっていることも事実なのです。

さらに近年では猟師の高齢化とともに人数が減少し続けていることも見逃せません。

かといって今やジビエ(野生鳥獣の食肉)を提供する店は当たり前のように見かけ一種のブームになっていますが、ゆき過ぎた商業目的での猟が横行すればあっという間に野生動物が減ってしまう危険性もはらんでいます。

そもそも野生動物を安定的に捕獲して供給すること自体に無理があり、伝統的を無視した無茶な猟が横行すればその結果は容易に想像できます。

もちろん自然に対する考え方は、猟師、学者(研究者)、自然保護活動家、林業従事者、野生動物の駆除を担当する自治体職員など立場によって異なるのが当然であり、それは日頃自然に接する機会の少ない都市部の住人、または豊かな自然の残る地域で暮らす住人の間ですらも同じことが言えます。

日常的に自然や野生動物と接している猟師(著者)の考察は奥深く、一方で厳格になり過ぎず、肩の力を抜いて自然と向き合う姿勢には共感を覚える読者も多いのではないでしょうか。