レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

この地名が危ない


著者は30年以上にわたり地名を研究し続けててきた楠原佑介氏です。

まず本書に書かれている要点は以下に尽きます。

私は三十年余り前から、「歴史的伝統的地名」の保存を訴え続けてきた。本書で繰り返し指摘していることは、古い地名を分析することによって、それぞれの土地に関して、それぞれの時代の人々が後世の我々に何を伝えようとしていたのか、把握できるということである。

私自身も地区町村の合併などによって、安易に地名がひらがなやカタカナ表記に変わってゆくことに抵抗を覚えている1人です。

ただその理由は何となく伝統や歴史が失われているしまうといった漠然としたものですが、著者の指摘する理由は次のように具体的なものです。

這うようにして大地を拓き耕してきた日本列島に住む庶民=農民にとって、災害は我が身に迫る直截的な危険であるとともに、その知恵と経験と情報は子孫に必ず伝え残さなければならないメッセージでもあった。
~ 中略 ~
地名こそは、それぞれの地域に定住する人々が未来に託した土地情報であり、子々孫々にまで語り継がなければならない祈りであったように思われる。

ほとんどの土地名は漢字で表記されるため、その字義に囚われがちですが、著者が読み解く地名は私にとって新鮮なものでした。

たとえば福島第二原発が建設された楢葉町波倉の""の由来は、昔の言葉で動詞「クル」(今の言葉で「えぐる」)が名詞化したものであり、「波がえぐった土地」という津波の痕跡を示す地名となることから、建設時にその点を指摘する人がいなかったことを批判しています。

鎌倉倉敷なども同じ由来で名付けられた地名であって、倉庫や蔵屋敷には全く関係ない危険な土地であること警告しています。

また中越地震で崖崩れの起きた長岡市妙見町については、""は動詞「メゲル」(壊れる、損なうの意)から来ており、崩壊地形であると解説しています。

よって日本各地にある「妙見、明見、妙顕」の地名は本質的に危険な土地であることを示しており、北極星を神格化した仏教用語から拝借した縁起の良い漢字が当てはめられているに過ぎないのです。

新書という制限もあり、ヨミや漢字ごとに体系的な解説をしていませんが、おおまかに東日本大震災新潟県中越地震阪神・淡路大震災といった過去の大災害ごとに地名を解説しています。

もちろん本書に書かれていることをそのまま鵜呑みにすることも危険ですが、これを機会に自分が住む地名の由来を調べてみるというのも悪くありません。