戦国大名の兵粮事情
私と同様「戦国大名の兵粮事情」というタイトルに惹かれて本書を手に取った読者はかなりの歴史小説好き、もしくはマニアであると想像できます。
こうしたマニアックなテーマで本を世に送り出し続ける出版社(吉川弘文館)、そして著者(久保健一郎氏)には敬意を表したいと思います。
戦国時代を語る上で武将そのものにスポットライトが当たるのは当然として、戦争に勝利するための戦術や戦争の舞台として欠かせない城をテーマにした本は数多く存在しますが、"兵粮"をメインテーマに取り上げている本書は希少な存在です。
本書の目次からおおよその内容が推測できます。
- 平安末~鎌倉時代の兵粮
- 南北朝~室町時代の兵粮
- 調達の方法
- 戦場への搬送
- 備蓄と流出
- 困窮と活況
- さまざまな紛争・訴訟
- 徳政をめぐって
- 戦争状況の拡大
- 両国危機のなかで
- 兵粮のゆくえ-エピローグ-
まず兵粮といえば軍隊の食料という印象を受けますが、実際の意味や用途は多岐に渡ります。
広義には戦国大名が年貢として徴収した米を兵粮と呼びますが、この場合の兵粮は家臣たちへの給料、そして通貨や物資との交換のためにも用いられました。
戦時には大名の強力な権限の元に兵粮を要所へ集約し、他国へ持ち出すことを固く禁じたことが当時の文書からも分かっています。
また時には兵粮を商人に預けて利殖活動(金融業)をすることもありました。
つまり兵粮とは戦国大名にとってすべての富の源泉でもあり、この兵粮をいかに運用するかが戦争以前の死活問題と直結していたのです。
やがて江戸幕府による平和な時代が訪れることによって兵粮の意味が変質してゆくことになりますが、戦が絶えなかった戦国時代の兵粮を考察してゆくことで当時の社会全体が見えてくるのです。