レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

新訂 海舟座談


津本陽氏の長編小説をはじめ、本ブログでもたびたび取り上げてきた勝海舟

明治維新における彼の功績は改めて説明するまでもありません。

明治政府成立後も要職に就かなかったわけではありませんが、いずれも短期間で辞めてしまい、半ば隠居生活に入っていました。

ただ明治時代がはじまった時点で勝は40代半ばを過ぎており、当時の一般的な基準から見ても決して早すぎる隠居生活ではありませんでした。

本書は晩年の勝海舟に惚れ込み、教育者、実業家であった巌本善治(いわもとよしはる)が、週に一回、または二回の頻度で晩年の勝の元へ訪れ、昼間聞いた座談を、自宅に帰ってノートにそっくり書き留めるという作業を続けた記録が出版されたものです。

その原型は勝没後の明治32年に出版された「海舟余波」ですが、そこへ生前の勝と交流のあった人たちの回顧録を収録したものを付録として加えたものが、昭和5年に岩波書店から出版された本書「海舟座談」です。

タイトルから分かる通り、海舟の元へ足しげく通った巌本は、インタビューでもテーマを決めた対談ではなく、座談という何気ない会話を記録したものだけに、話題は幅広く多岐に渡っています。

座談は日付ごとに掲載されているため、小説のように一気に読んでしまうよりも5分、10分とちょっとした時間に少しずつ読み進んでゆく方法をお勧めします。
(私は他の本と併読しながら、この方法で本書を読み終えるまで2ヶ月くらいかかりました。)

当時の国際情勢、財政、また維新の頃の回顧録から人物評に至るまで、座談の内容は都度変わってきますが、勝家の資産運用の話、明治以降の徳川家や旧幕臣たちへの資金援助の話題が出てくることもあります。

ほかにも、のちに勝海舟の歴史小説に取り入れられたような逸話が座談の中から出てきたりする部分も本書を読む楽しみになります。

最後の座談は勝が亡くなる5日前に行われましたが、高齢ではあるものの勝自身はそれほど深刻な状況と受け止めていなかった様子までもが伝わってきます。

巌本「まだいけませんか?」
勝 「どうも痛くってネ、通じがとまったら、またいけなくなりましたよ。」
勝 「どうです。世間は騒々しいかネ。静かですか。戸川(残花、旧幕臣)はどうしてます?」

歴史上の偉人である勝海舟の晩年の声が生き生きと収録されている本書は、史料としても価値を持っている1冊なのです。