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ルポ 中国「潜入バイト」日記



上海に移住して活躍するフリーライター西谷格(にしたに・ただす)氏が中国の最先端ITサービスを片っ端から体験してゆく「ルポ デジタルチャイナ体験記」が興味深かったため、続けて手に取った1冊です。

本書はタイトルから分かる通り、著者が中国人社会の中でアルバイトを次々と経験したルポになります。
実際に体験したアルバイトは以下の通りです。

  • 上海の寿司屋でバイトしてみた
  • 反日ドラマに日本兵役として出演してみた
  • パクリ遊園地で七人の小人と踊ってみた
  • 婚活パーティで中国女性とお見合いしてみた
  • 高級ホストクラブで富豪を接客してみた
  • 爆買いツアーのガイドをやってみた
  • 留学生寮の管理人として働いてみた

    • 上記のうち婚活パーティーへの参加はアルバイトとは違いますが、著者は日本人の中で漠然とた共通認識である中国人像、または中国社会のイメージではなく、それをより深く知るための手段として日本人のいない中国人だけの職場で働くことを思いついたのです。

      近年は急速な経済発展を遂げているとはいえ、まだまだ日本と比べてもアルバイトの時給は低く、進んでこうしたディープな体験をする日本人は殆どいないだけに本書を興味深く読むことができました。

      著者が体験したアルバイトは同種のものが日本にも存在する一方で、日本ではまず見られない光景や出来事が日常的に体験できるというのが一番の醍醐味ではないでしょうか。

      詳しくは本書を読んでのお楽しみですが、本書で知った中国人たちの興味深い一面を紹介したいと思います。

      まず1つ目は中国人の衛生意識が日本人と大きく隔たりがあることです。
      著者は自分の経験上、中国の衛生意識は東南アジア(たとえばタイやベトナムなど)のそれと比べても低いとも指摘しています。

      床に落ちた食材を拾って調理することに罪悪感は皆無であり、見た目が汚れていなければ衛生的に問題ないという共通認識があるようです。
      さらに床に直接まな板を置いて調理する、床に料理が盛り付けられた皿を置くというのは中国人の衛生感覚からすると何の問題もないようなのです。

      これは野菜すらも生で食べる文化がなく、熱を通して濃い味付けの傾向がある中華料理という食文化も関係している気がします。

      2つめは中国人は日本人以上に開放的であるという点です。

      中国は共産党の独裁国家であり、密告などの制度がある監視社会であると言われていますが、思ったより閉鎖的ではないという点です。
      著者は自己紹介で日本人であると伝えても特段怪しむアルバイト先は皆無であり、「あ、そう。」、もしくは「日本人は珍しいね。」程度で違和感なく迎え入れてくれたといい、それは婚活パーティーでも同様だったようで、上海在住の著者すらもそれが驚きであったと語っています。

      日常のコミュニケーションに差し支えなければ、彼らにとって相手がどの国の人でも大した関心事ではないようであり、どちらかというと日本人の方が外国人へ対して身構えてしまう傾向があるように思えます。

      3つ目は「ルポ デジタルチャイナ体験記」でも感じたことですが、中国人は仕事が「いい加減で雑」な面がある一方、とりあえず試してみるという柔軟さと臨機応変さがあり、本書を読んでそれはITサービスに限ったことではなく、中国人の精神に根ざしたものだと思いました。

      もし礼儀やマナー、地域や社会のルールが堅苦しくて我慢できないと感じている日本人がいれば、中国への移住を検討してみると案外良いかもしれません。

      本書を通じて分かることは、すぐ隣国とはいえ中国人の持つ良い面、悪い面というのは日本のそれとは大きく異なる傾向が異なり、常識とされていることもかなり違うということです。

      たとえば日本人が中国人へ抱くイメージの1つとしてマナーが良くないという点が挙げられますが、つねに他人への迷惑を気にして調和を重んじる日本人と、個人主義で他人の目を気にしない中国人という気質の差が大きく関係していることが分かってきます。

      また中国人は他人の目をあまり気にせず、困っている人の手助けにも関心が薄い不親切な社会に見えるかも知れませんが、一方で自分が身内(仲間)だと認めた人にはとことん親切であり、日本人であれば躊躇するような仲間内のお金の貸し借りも抵抗なく応じるといった一面があるようです。

      つまり本書は日本人が持つ平面的で偏りがちな中国へ対する一方向なイメージや溝を埋めてくれる手助けをしてくれるのです。