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ルポ デジタルチャイナ体験記



日本と中国を比べたときにモノ作りの品質に関しては日本に一日の長があるものの、すこし注意深くニュース読めば、ITサービスの分野においては完全に中国が日本の先を走っていることに気付かされます。

つまり中国産といえば危険な食品、偽ブランドというイメージは過去のものになりつつあり、近い将来、最先端のデジタル技術といえば中国産という時代が現実味を帯びつつあるのです。

本書は上海在住のノンフィクション作家・西谷格(にしたに・ただす)氏が、中国で最先端のITサービスを片っ端から利用してみた体験をまとめた1冊です。

デジタル化により無人運営されているホテル、レストラン、ショップ、そしてエンタメボックスという変わったものから、各種レンタルサービス、中国におけるキャッシュレスサービスの仕組みまでを難しい専門用語を使うことなく、あくまで利用者の目線からレビューするという本書のスタイルは、誰にでも理解しやすい内容になっています。

また本書を通じて、否が応でも立ち遅れている日本の現状を考えずにはいられません。

その特徴は、ITサービスは間違いなく最先端であるものの、現実は玉石混交であるということです。

つまり使い勝手の良い便利なサービスもあれば、見かけ倒しのハリボテのようなサービスも数多く存在するということです。

例えば日本で新しいITビジネスをはじめる場合、綿密な市場調査や高い品質の完成度を目指してスタートしようとします。

一方中国では、不具合が残る完成度7~8割程度の未熟な品質でよいので、とりあえずサービスを開始してから試行錯誤するという割り切りの良さがあります。

日本ではクレームの嵐になりそうな不具合でも、中国人たちは良くも悪くも日常的にそうした不具合に慣れており、自己責任として割り切れるという国民性の違いも大きいようです。

個人的にはITサービスに限らずビジネスでもっとも大切な要素はスピードだと思います。

つまり市場で試行錯誤できる中国では、ITサービスを猛烈な勢いで発展させることのできる土壌があるという見方ができます。

もちろん自動車や建造物のように自身の命を預けることになる商品には万全の品質を求めたいところですが、ことITサービスに関していえば命に直結する場面は少ないため、果敢なチャレンジをしやすい分野であることも確かです。

またデジタル技術による便利さを享受するためには個人情報漏洩も心配になりますが、元々共産党による一党独裁体制に慣れている中国人たちは、日本人よりも個人情報提供に関して寛容です。

中国ではキャッシュレス決済と併せて信用度もデジタル化されており、利用者の個人資産や交友関係までもを総合的に判断して信用スコアとして数値化されている社会なのです。

日本人はこうした信用度を数値化してしまうと、それをあたかも"人間の値打ち"のように捉えがちですが、中国人たちはITサービスを利用するための一種のパラメータと割り切って気軽に教えあったりする国民性があるようです。

本書にはあくまでも中国の最先端ITサービスの体験と日本における類似サービスとの違いが論じられているに過ぎません。

それでも本書から考えさせれることは多くあり、文化や政治体制、そして国民性に根付いたものが中国のITサービスの原動力となっているため、日本はおろかアメリカや他の国であっても、最先端を走り続ける中国を追従するのは容易ではないことが分かってきます。

そして確実に言えるのは、最先端のデジタル技術、ITサービスを知るためには、今後も中国の動向に目を離せないということです。