日本の昔話
柳田国男が日本全国より採集した昔ばなしを1冊の本にまとめたものです。
以前似たような本として「日本の伝説」を紹介しましたが、専門家でない私は昔話と伝説の違いを正確に説明することは出来ません。
何となく伝説は特定の場所やモノにまつわる言い伝えであり、昔話は囲炉裏端や寝床などで祖母が語る昔の物語といった感じの違いでしょうか。
本書は200ページ足らずの薄い文庫本ですが、なんと100以上の昔ばなしが収められています。
本書は昭和5年(1930年)に刊行されたものが、増版を続けて現在に至っているものです。
昭和5年というと、その当時子どもとして昔ばなしを聞いていた人たちは現在100歳前後のはずです。
一方で柳田は昭和5年以前から日本各地で先祖代々語り継がれてきた昔ばなしが失われることを危惧し、仲間たちと協力して精力的にこうした昔ばなしを採集するという努力を続けてきました。
私自身も子どもの頃に聞いた昔ばなしは「桃太郎」や「浦島太郎」に代表されるような全国区の昔ばなしばかりであり、その土地ならではの昔ばなしを聞いた記憶は殆どなく、まして現在においては子どもが先祖代々口伝のみで伝えられてきた昔ばなしを聞く機会は皆無となっているはずです。
本書に載っている昔ばなしは教訓めいたものや荒唐無稽なもの、迷信ががったものなどバラエティに富んでいて見ていて飽きません。
ちなみに柳田は本書のはじめで次のように語りかけています。
皆さん。この日本昔話集の中に、あなた方が前に一度、お聴きになった話が幾つかあっても、それは少しも不思議なことではありません。
なぜかというと、日本昔話は、昔から代々の日本児童が、常に聴いていたお話のことだからであります。
この書き出しから分かるとおり、柳田は苦労して採集した昔ばなしを児童文学として多くの子どもたちに読んでほしかったのです。
こうして大人になり改めて各土地の昔話を読んでみると、子ども向けの他愛のない話としではなく味わい深く感じられるのは私だけではないはずです。