レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

家康と七人の忍び


佐藤賢一氏による徳川家康の「伊賀越え」を舞台にした歴史小説です。

よく家康は生涯に3度の危機を経験したと言われています。

1つ目は若き頃に経験した「三河一向一揆」であり、このときは家臣団までもが家康側と一向衆側に分かれて血肉の争いを繰り広げました。
こちらは以前に本ブログでも紹介した宮城谷昌光氏の「新三河物語」でその舞台が詳細に描かれています。

2つ目は西上作戦を起こした武田信玄を阻止すべく両者が激突した「三方ヶ原の戦い」であり、ここで生涯で唯一といえる野戦における大敗を経験しました。

そして3つ目が本作品で描かれる「伊賀越え」です。

織田信長から安土城へ招かれた家康はそこで饗応を受け、その後信長は家康へ京都や境の見物を進められ、自身は西国へ出陣準備をするために京都に入りました。

そこで明智光秀による反乱、いわゆる本能寺の変が起き、信長が本能寺で散った後、僅かな供回りを従えて本国三河へ脱出する過程が「伊賀越え」と言われます。

ただし本作品は家康の目線からではなく、彼を無事に三河へ送り届けるために影で活躍したであろう忍び(忍者)たちの目線から描かれています。

伊賀越えの詳しいルートやその詳しい経過は分かっていませんが、それだけに歴史小説作家として自由に創作できる余地が残されている題材だと言えます。

忍びたちの頭目は服部平太夫正尚(はっとりへいだゆうまさなお)であり、彼はのちに江戸幕府の第2代将軍となる秀忠の生母である於愛の方の養父として知られています。

彼の元には6人の個性豊かな下人を従えており、自身を含めて7人が本書のタイトルになっています。

敵と真正面から渡り合うことは得意な武士ですが、情報収集や隠密行動といった現代でいうスパイ活動には不向きであり、戦国時代でその点は忍びたちの独壇場だったといえます。

ただし最短ルートで堺から三河に脱出するためには伊勢から乗船する必要があり、その道程には忍びたちの本拠地である伊賀を通過する必要があり、必然的に敵も同じ忍びということになります。

忍びの世界には武士や剣豪たちとは異なる彼ら独自の価値観があり、たとえば彼らにとって不意打ちや毒殺といった手段は決して卑怯なものではありません。

一方で共通した部分もあり、それは下忍にとって上忍の命令は絶対である点で、武士と同じように忠義が重んじられていました。

本作品に登場する下忍たちは個性豊かで、特技が変装であったり水練であったり、俊足だったりとエンターテイメント性に溢れています。

こうしたジャンルが存在するか分かりませんが、"時代スパイ小説"として楽しませてくれた1冊でした。