レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

吉村昭が伝えたかったこと


本書は吉村昭氏が死去した後に文藝春秋社によって編集された1冊であり、2013年に発表されています。

吉村氏が死去したのが2006年であり、本書が出版されるまでの間に起きたもっとも大きな出来事といえば東日本大震災です。

吉村氏には「三陸海岸大津波」、「関東大震災」といった災害に関する著作があり、生前これら著書に関する講演を岩手県の宮古市や田野畑村で行った経験があり、その内容が紹介されています。

続いて生前の吉村氏との交流のあった、また交流はなくとも氏の作品に大きな影響を受けた作家たちが、残された作品や功績について考証しています。

いずれも共通するのは、入念な取材と地道な資料探しによって作品を作り上げるストイックな作家としての姿勢を尊敬している点です。
それは吉村氏は太平洋戦争や日中戦争の証言者が高齢化に伴い激減したことを理由に、さまざまな題材を元に発表し続けた戦史小説を一切止めてしまったことからも分かります。

彼の作品は長編・短編・エッセイ問わず色々と読んできましたが、第三者の視点から語られる"吉村昭"は新鮮であり、ファンの1人として新鮮な気持ちで読むことができました。

そして本書でもっとも特筆すべき点は、妻であり同業の作家でもあった津村節子氏のロングインタビューが掲載されている点です。
今まで吉村氏の私小説の中でもあまり語られることのなかった2人の出会いの経緯などを知ることが出来ます。

さらには生前行われたボクシングを題材としたノンフィクション「一瞬の夏」で有名な沢木耕太郎氏との対談も掲載されています。

吉村氏にもボクシングを題材とした長編や短編作品があり、かつては熱心なボクシングファンであった時期がありました。

1927年(昭和2年)生まれの吉村氏と1947年(昭和22年)生まれの沢木氏では見てきた選手や試合が違い、まさに日本ボクシング界の黎明期から試合を見てきた吉村氏の証言は貴重なものだと思います。

また吉村氏が取材で訪れた旅先で出会ったいい肴と酒、旅の思い出などを過去に発表されたエッセイの中から抜粋して掲載している箇所もあります。

そして最後は吉村昭氏の完全ブックガイド&年表が掲載されており、とくにブックガイドでは各作品ごとに簡単な紹介文も掲載されているため興味のある題材や作品を探す際にも役に立ちます。

色々な企画が450ページもの文庫本に凝縮されており、まるで豪華なムック本を読んでいるようでした。

吉村昭氏の作品をある程度読んでいる人向けの本ですが、氏の作品が好きな人であれば是非読んで欲しい1冊です。