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政治家の殺し方

政治家の殺し方

元横浜市長である中田宏氏による著書です。

著者は松下政経塾出身で衆議院議員として当選した後、2002年から2期にわたって横浜市長を務めた経歴を持っています。

中田氏は横浜市長に就任してから様々な行財政改革へ着手し始めます。

例えば公共事業の一般競争入札化特殊勤務手当の大幅な圧縮退職前日の昇給制度の停止無駄な交際費の廃止などなど。。

民間企業の基準から見ればどれも適切な改革だと思いますが、長い間に慣例化した仕組みの裏には既得権益を持った人々が形成されてゆきます。

彼ら抵抗勢力(保守派)が選んだ手段が、中田氏をスキャンダルに陥れるというものでした。

特筆すべきはハレンチな下半身スキャンダルであり、市長本人が知らない間に元愛人と称する人物が市役所内で記者会見を行うといったエスカレートさを見せ、妻や子供もいる中田氏にとっての精神的な苦痛は想像を絶するものがあります。

本書が出版された2011年の時点で、一連の報道へ対する名誉毀損の訴えで中田氏が全面的な勝訴を得ていますが、当時のマスコミの姿勢に対して強い疑問を投げかています。

一方で著者は自らを妥協する(=清濁併せ呑む)ことが苦手であり、改革を徹底的に推し進める姿勢が相手を追い込んでしまったと分析していますが、確かにその通りだと思います。

そしてタイトルにもある通り、テレビや新聞、週刊誌でスキャンダルを取り上げられることは政治家にとって致命傷となるものです。

個人的には例えそのスキャンダルの一部が真実であったとしても、その人物の功績や能力などを考慮して総合的に判断するべきであり、あまりにも容易に政治生命を絶たれかねない今の風潮には疑問を感じます。

まして著者の場合にはほぼ100%が濡れ衣であり、自殺こそ考えなかったものの不眠症になり、家族や支援者の存在、政治家としての自らの信念といった心の支えが無ければ、スキャンダル報道に毅然として耐え続けれた自信はなかったと告白しています。

中田氏が言及しているように「政治は魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する世界である」というのは、経験者の言葉だけに重い現実であるという認識と共に、まだまだ改革の必要があることを意味しています。

過去のしがらみに囚われず、自ら正しいと思ったことを決断し実行する

単純に聞こえますが、政治の世界でこの姿勢を貫くことの難しさを感じた1冊であると同時に、そうした信念を持った人に1票を投じて応援してゆきたいものです。