水滸伝 4 道蛇の章
北方謙三「水滸伝」4巻目に突入です。
全19巻にも及ぶ大作のため、途中でレビューのネタが尽きてしまうことを心配していますが、今のところ大丈夫なようです。
これから読む人のためにストーリー詳細を紹介するのは控えますが、ストーリー自体は宋を倒すべく梁山泊を拠点に決起した反乱軍の物語という、きわめて単純な構図であることは以前にも触れました。
ただし武勇に優れた豪傑、天才的な軍略を生み出す軍師が次々と登場し、強大な国家を相手に奮闘するといった内容だけでは途中でマンネリ化してしまうことを避けれませんし、講談本のような内容に終始してしまいます。
そこで今回は一見単純に見えるストーリーでありながらも、読者を飽きさせない北方水滸伝の魅力を紹介してみたいと思います。
1つ目は、登場人物たちの幅の広さです。
登場するのは豪傑や軍師といった人物だけではありません。
料理人や大工、医師、薬草師、鍛冶屋といった専門技能を持った人物たちが中心に活躍する章が度々登場します。
さらに馬の調教師、獣医、偽書や偽造印鑑を作成する専門家たちまでが登場し、それぞれ重要な役割を担います。
医師がメスを剣に持ち替えて兵士として活躍するのではなく、彼らが持っている専門技能をそのまま発揮して梁山泊の一員として活躍するのです。
それは梁山泊が単なる盗賊の根城ではなく、数万人が常時生活をしている本格的な反乱軍であり、小さな国家を形成しているといった奥行きを作品全体に与えています。
北方氏は彼らの活躍を要所々々で描いていますが、それは決して退屈なシーンなどではなく、梁山泊に参加したヒーローの1人として苦悩し、そして成長してゆく姿は、サイドストーリーだと片付けられないほど力がこもっています。
2つめは梁山泊と連携して戦う、リーダーたちの存在です。
梁山泊の首領は晁蓋と宋江ですが、梁山泊の外部にも二竜山、少華山、桃花山、清風山、双頭山といった拠点が連携し、梁山泊と同じ「潜天行道」の旗を掲げて官軍と戦いを繰り広げます。
特に序盤に行われる戦闘の殆どは、各拠点が官軍と激突するシーンであり、首領には青面獣・揚志、九紋龍・史進といったお馴染みの好漢たちが獅子奮迅の働きをします。
彼らはいずれも一騎当千の強者ですが、はじめは自分にも部下にも厳しいだけの"どこか心に余裕のない指揮官"でした。
しかし戦いを通じてリーダーにとって本当に必要な要素を学んで成長してゆく姿に惹きつけられてゆきます。
つまり晁蓋や宋江が生まれながらに人望を備えていたかのような指導者であるのに対し、揚志や史進たちの成長は現在進行形であり、彼らの成長をじっくり描くことができるのも、長編小説の長所ではないでしょうか。
とにかく読み進めるほどに登場人物に愛着が出てくるような魅力を持った作品であることは間違いありません。