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引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

水滸伝 6 風塵の章

水滸伝 6 風塵の章 (集英社文庫 き 3-49)

大長編「北方水滸伝」もそろそろ中盤に入りつつあります。

108人の好漢が梁山泊に集結する日はまだまだ先だと思いつつ読み進めていましたが、なんと全員が登場する前から官軍との戦いで命を落としてしまう好漢たちが出てきます。

もっとも108人の好漢たちが揃うという思い込みは原作からの先入観であり、本作はあくまでも「北方水滸伝」なのです。

志をもった男たちが命がけで官軍と熾烈な戦いを繰り広げるのです。

当然のように、その過程で命を失う者が出てくるのはきわめて現実的であり、フィクションだからといってお伽話のような小説ではなく、男の生き様をリアルに描きたいという著者の強い思いが伝わってきます。

現代社会において、男が命を賭けて戦うという姿は滅多に見ることができませんし、戦国武将や維新の志士たちのような生き方を真似できる時代でもありません。

つまり希薄になりつつある「青雲の志」、「闘争本能」、「利害を超えた友情」といった古ぼけた、露骨にいえば汗臭い男の生き様を「水滸伝」を題材に書き上げた作品なのです。

敵の刃にかかり道半ばで斃れる好漢がいますが、その志を同僚や部下、そして家族が継いでゆくといった場面が何度も登場します。

たしかに命を失ってしまえば人生はそこで終わりですが、北方水滸伝の中では生き残った者たちが確実に、そして目に見える形で死んだ者の「志」を受け継いでゆきます。

愛着がある好漢たちが道半ばで斃れてゆくのは残念ですが、新しい好漢が活躍してゆき、長い作品をうまく新陳代謝させる役割もあるようです。