水滸伝 12 炳乎の章
著者の北方謙三氏が、「キューバ革命」をモチーフに「水滸伝」を執筆したというエピソードは有名です。
ただしカストロが宋江、ゲバラが晁蓋、カリブ海が梁山湖をイメージしていると言われても、作品を読んでいると限りピンと来ません。
それは地理的、時代背景の条件が違い過ぎるせいですが、あくまでも作者のインスピーレーションの話のため、読者はそれを気にする必要はないのかも知れません。
一方で"独自のハードボイルド小説"という地位を築き上げた著者が(最終的ではないにしろ)行き着いた場所が、「水滸伝」という見方もできます。
私自身が"ハードボイルド"という定義をよく分かっていませんが、なんとなく"硬派"、"反骨精神"というキーワードは浮かび上がってきます。
ただし1人の男がハードボイルドな生き方を貫き通しても、国家への影響力はたかが知れています。
ハードボイルドな生き方の男たちが集まって、国家を相手に戦いを挑んだ物語として捉えれば、「水滸伝」という作品が生まれてきた背景も納得できる気がします。
作品中では国家の腐敗を象徴するのが「役人への賄賂」であり、そうした政権を打倒しようとする革命戦争であるというという構図が基本にあります。
皮肉なことに現在の中国共産党の方針を見る限り、「北方水滸伝」が中国へ逆輸入されることはしばらく無さそうです。