天国までの百マイル
その時々のテーマで本を選んだり、本屋などで何気なく目に止まった本だったりと動機は様々ですが、基本的に1年中何かしらの本を読んでいます。
もちろん良い本もあれば、いまいち自分には合わない本もあったります。
ここ数年、単純に小説を楽しみたい時に無意識に本を手にとってしまう作家が浅田次郎氏です。
本書「天国までの百マイル」は(よい意味で)浅田氏の典型的な”泣かせる小説”であり、彼の作家として技量が最大限に発揮されています。
浅田氏のこうした作品では、"どこか冴えない中年男"が主人公というパターンが多いのですが、本書にもそれは当てはまります。
不動産会社の経営者として幅を利かすもバブルの崩壊と共に会社が潰れ、仕事の仲間どころか、妻子や兄弟からも見放された典型的な落ち潰れ中年"城所安男"が主人公です。
再起する気概がないどころか、同じく冴えない中年ホステス"マリ"のアパートに転がり込んで何とか生活しているといった有り様でしたが、主人公の"母"が心臓病で倒れるところから物語が動き出します。。。
世の中の中年男性に将来の目標を聞くと、おそらく"会社での出世"、"独立して経営者として成功する"といったものが代表的なものではないでしょうか。
中には、"息子の受験成功"、"老後の貯蓄"といった現実的で涙ぐましいものもあるでしょう。
私自身にもそうした考えがあることを否定しませんが、もしすべてを失った時に本当に大切なものは何でしょう?
おそらくそれは"富や名声"といったものではなく、身近なもの。
例えば家族と一緒に過ごした時間であったりするハズであり、日々の生活の中で"当たり前の"大切さを改めて気付かせてくれるところが、読者の共感と感動を呼ぶのではないでしょうか。