レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

閉鎖病棟

閉鎖病棟 (新潮文庫)

帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)氏の小説です。

タイトルの「閉鎖病棟」とは精神科病院であり、登場人物の大半はその患者という設定です。

過去にも箒木氏の作品をブログで紹介していますが、まず結論から言うとその中で「傑作」と感じた作品です。

何といっても著者の帚木氏は小説家であると同時に精神科の開業医でもあり、自らのフィールドを遺憾なく発揮できたからこそ生まれた作品だと思います。

健常者から見てもっとも理解が難しいのが、"心の病"すなわち精神病の患者たちではないでしょうか。

世間から偏見の目で見られ、時には家族からも疎まれてしまう精神病患者たちを主要な登場人物にするばかりか、ストーリー自体も彼らの目線を中心に展開されます。

先天的に病を患っている患者もいれば、心に大きな傷を負ってしまったために病気になってしまった患者もいます。

健常者には何でもないことを、彼らが必死に取り組むことによって心温まるエピソードになります。

それは自分の意志をうまく他人へ伝えることのできない彼(彼女)らが、それでも必死に真っ直ぐ生きようとする姿勢に心打たれるからではないでしょうか。

またキレイ事ばかりでなく、時には痛ましい出来事が起こってしまうこともあります。

それでも傷ついた仲間を助け、励まそうとする姿は読者の心を打たずにはいられません。

世間から隔離された精神科病院の中を描いた人間ドラマという視点は、とても新鮮であり、同時にすんなりと感情移入できることに驚きを覚えます。