宗教哲学入門
教養書からもう1歩踏み込んだ専門書に近い1冊です。
宗教を哲学的に考察するという内容に何となく興味を持って手にとった1冊です。
そもそも宗教哲学という体系的な専門分野があることを本書ではじめて知ったのですが、その起源は16世紀ドイツの有名な哲学者"カント"まで遡るようです。
特定の宗教を理論的に考察してゆく神学とは異なり、宗教哲学は宗教一般の真理、絶対有(もしくは絶対無)の本質を理解するための学問であるため、特定の宗教や宗派を批判することはしません。
とはいえ無数に存在する宗教を一括りにして考察するのは現実的ではないため、本書では世界三大宗教といわれる仏教、キリスト教、イスラム教を取り上げています。
前半では本書の前提知識としての世界三大宗教の生い立ちや教義の説明を行い、さらには個別に哲学的な考察を行ってゆきます。
中盤では宗教の提示する真理を虚構だとする(宗教批判の)哲学への反論を展開しています。
特にニーチェやマルクスといった代表的な無神論者に的を絞って、最終的には彼らの思想こそが反哲学的であると断じています。
後半では世界三大宗教を横断的に宗教哲学として考察してゆき、各宗教に共通する救済、絶対者、信仰、そして真理といった内容へ踏み込んでゆきます。
最終章では「現代という時代の深層ないし底流にあるものはニヒリズム・無神論なのである」とし、確かな価値を見出すことのできない時代だとしています。
情報化が進みリアリティが失われつつある現在は道徳が退廃しつつあり、その先に「第三次世界大戦=人類破滅」が潜む危険性さえ指摘しています。
大げさだと思う反面、現代の大勢を無神論が占めているという部分は否定できません。
瞑想や只管打坐による自力本願の実践、念仏や経文による他力本願を日常的に実践している人は、私含めて同年代にはまず見当たりません。
これは当然のようにも思えますが、日本が仏教国であることを前提とするならば、むしろ異常な状態なのかも知れません。
私自身に当てはめて言えば宗教による絶対的な救済を心から信じられないからであり、この気分は多くの現代人にも共通するのではないでしょうか。
一方で宗教を積極的に否定する理由も持たないのですが、一概に言ってしまえば宗教に対する"無知"や"無関心"が理由であることに尽きます。
とはいえ、いきなり熱心な信者となるのも現実的ではありません。
内容は少々難解ですが、私と同じ関心を持つ人であれば、宗教全般の本質を理解する一端として本書を手に取ってみるのもよいかも知れません。