ニンジアンエ
著者の古処誠二氏がテーマとして取り上げることの多い太平洋戦争を背景に書かれた小説です。
小説の舞台はビルマ(現ミャンマー)です。
当時のビルマはイギリスの植民地でしたが、日本軍が大東亜共栄圏の確立を目的としてビルマへ進軍し、一時はイギリス軍を駆逐することに成功します。
いずれにしてもビルマ人にとっては自国の中で外国同士が戦争をはじめる訳ですから、彼らが一番の被害者であることは間違いありません。
日本軍やイギリス軍もそれを充分に自覚しており、宣撫班を組織して地元住民たちの理解と協力を得るための活動を続けてきました。
本作のストーリーは日本軍の宣撫班に同行する新聞記者の視点から書かれています。
一介の従軍記者の視点を利用することで日本軍、イギリス軍、そしてビルマ人といった3つの異なる立場に属する人間たちの思惑や行動を描いてゆきます。
実際には軍の中にも兵士や将校といった階級の違い、そして地元のビルマ人の中にも様々な立場をとる人びとがいるため、実際にはもっと複雑な構造になりますが、記者の視点から描くことで読者の頭の中を整理してくれます。
兵士たちは遠い祖国に家族を残して銃弾やマラリア、空腹の脅威に晒されながら、彼らなりの正義を掲げて異国で戦争を遂行します。
いずれにしても日本やイギリス兵士にとってビルマは祖国ではなく、最後は生き残って故郷に帰る希望を抱いています。
一方でビルマ人たちは?
いずれの国が戦争に勝利しようともビルマ人にとっては支配者の顔ぶれが変わるだけであり、彼らは生涯に渡ってそこに住み続けなければなりません。
つまり、どの立場にあっても誰も望まない状況を作り出すのが戦争の矛盾でもあるのです。
著者の古処氏は戦争という人災を淡々と描写してゆきますが、あえてそうすることで作品の中に痛烈なメッセージを埋め込もうとしているように思えます。