レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

未踏峰

未踏峰 (祥伝社文庫)

社会人として挫折を味わった橘裕也、アスペルガー症候群の戸村サヤカ、知的障害を抱える勝田慎二。

現代社会が彼らを寛容に受け入れることは難しいのかもしれません。

それでも北八ヶ岳で山小屋を営む通称"パウロさん"は、そんな彼らを好意的に受け入れます。

大自然の懐で質素ながらも充実した毎日を山小屋で過ごすうちに、彼らは生きがいを見つけるようになります。

やがてパウロさんたちは、みんなでヒマラヤにある未踏峰の登頂を目指すように提案します。

ただし未踏峰とはいっても6千メートル級の無名ゆえの未踏峰であり、それは決して快挙を果たすことを目的としたものではありません。

心に傷を負い人生の再起を誓う彼らが、再び自信を取り戻すための儀式として登頂を目指すのです。

そして何よりも裕也たちを受け入れたパウロさん自身が、世界的なクライマーとして活躍していた頃に負った心の傷を癒やすための儀式でもあったのです。

もちろん山は人間を癒やすために存在するのではなく、時には過酷な自然が人の命を奪うこともあります。

それでも小さな存在である人間は偉大な山へ畏敬の念を抱き続けるのです。。。

山の素晴らしさを綴っただけの物語ではなく、人間同士が助け合うことでお互いが救われるという大切なメッセージが込められている作品です。

壮大な自然は、そのきっかけを作ってくれる存在なのかも知れません。