レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

ふたつの枷

ふたつの枷

終戦記念日が近づく暑いこの時期には、第二次世界大戦や太平洋戦争を扱った本を読むことを習慣にしようと考えています。

去年の夏には浅田次郎氏の「終わらざる夏」を読みましたが、今年はかなり前から古処誠二氏の作品を読むことに決めていました。

それは古処氏が戦争や自衛隊を題材にした作品を意欲的に発表している若手の作家であり、今まで何冊かの作品を読んでもその意気込みが伝わってきたからです。

ただし雰囲気は作品によってかなりの違いがあります。

本書「ふたつの枷」には、4つの短編~中編小説が収録されていますが、今まで読んだ作品の中ではもっとも"戦争文学"に近い印象を持ちました。

小説の舞台はビルマ、サイパン、フィリピン、ニューギニアとそれぞれ違いますが、いずれも太平洋戦争当を日本軍を中心に描いています。

著者は私とそれほど年齢が離れていないこともあり、当然のように戦争を体験した世代ではありません。

しかし作品中の描写はリアルさを感じる内容であり、特に日本兵をもっとも苦しめた飢餓やマラリアなどの風土病の描写をはじめて読んだときの迫力に驚いたことを今も覚えています。

本書に収められている作品はどれも単純なストーリーであり、意外性を持ったものはありません。

その分、兵士たちの置かれた状況や心理などがじっくりと描かれています。

彼らは屈強で選び抜かれた人間ではなく、おそらく現在の我々とそれほど変わらない民間人たちが徴兵によって強制的に兵士となったに過ぎません。

つまりたった2世代生まれる時代が変わるだけで、私も戦地で戦う経験をしていた可能性が高いのです。

もちろん戦争の体験など絶対にしたくありませんが、だからこそ本書を読む価値があります。

一般的に我々の世代が戦争へ無関心だという意見には私も同意せざるを得ません。

終戦記念日が近づくこの時期に是非おすすめしたい1冊です。