孫ニモ負ケズ
北杜夫氏が1人娘に誕生した初孫"ヒロ君"との日常をエッセー風に描いた作品です。
もちろん祖父にとって初孫が可愛いには違いありませんが、それを素直に書き記す作家でないことは、氏の作品を何冊か読んできた読者であれば容易に想像できます。
子どもは3歳にもなれば飛び跳ねて遊び始めますが、北氏は歳をとり体が思うように動かなくなっています。
加えて長年にわたって躁鬱病を患っているため、精神的にもヒロ君の天真爛漫さについてゆく気力もありません。
やがてヒロ君の元気さに圧倒され、両親との関係と違った独特の関係が築かれてゆくのです。
孫にとって組み易い格好の遊び相手であり、著者にとってみれば自らは孫の"オモチャ"であり、そんな境遇を嘆いて「悲劇のジイジ」としての日常を綴っていきます。
もっとも北杜夫氏は若い頃より自虐的でユーモア溢れるエッセーを得意にしていましたので、老いたとはいえスタンスはまったく変わっていません。
孫にとって「威厳のある祖父」という存在よりも、身近で親しみやすい「ダメなジイジ」であり続けたいという著者の願いが込められた1冊です。