レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

婚約のあとで

婚約のあとで (新潮文庫)

前回に引き続き、またもや恋愛小説を手にとってみました。

著者は昭和を代表する作家・阿川弘之氏の娘で、TVでも活躍している阿川佐和子氏です。

本業はエッセイストのようですが、本書のような本格的な長編小説も手がけています。


化粧品会社に勤めながらも、恋人と婚約を交わした20代後半の波(なみ)の何気ない日常からストーリーが始まります。。

続いて波の妹で海洋生物研究所の助手である碧(あお)のストーリーと展開してゆき、その他にも総勢7名の女性が次々と登場し、オムニバス形式で物語が展開してゆく手法で書かれています。

タイトルのように婚約を前提とした恋愛もあれば、不倫という形の恋愛、結婚してからも続く恋愛、もちろん普通に付き合っている恋愛という形もあります。

しかし恋愛へ対する考えは、年齢や立場、そして性格などによって千差万別であり、女性作家ならではの切り口で彼女たちの心理を巧みに描写しています。


そして本作の主人公はあくまでも"彼女たち"であり、全編にわたって"男性の存在感が薄い"のも特徴です。

恋愛小説であるため当然のように多くの男性が登場しますが、彼らの行動や発言はあくまでも登場女性たちの視点を通じたものであるのが特徴です。

もちろん女性読者をターゲットとしている理由が大きいでしょうが、視点を"女性"に絞ることでストーリーの純度を高める効果もあります。

女性の(もちろん男性も)恋愛の価値観は人それぞれであり、"自由な恋愛"そして当然のように生じる"結果としての責任"というのが本書に一貫して流れるテーマのように感じます。

男性読者としても、オムニバスの最大の魅力である1章ごとにストーリーが切り替わることで飽きることなく最後まで楽しめますが、やはり女性が読むとより共感できるのではないでしょうか。