眠れぬ真珠
普段滅多に読むことのない恋愛小説というジャンル。
読書の秋ということで、思い切って手にとってみました。
著者の石田衣良氏は、どんなテーマで小説を書いてもテンポの良いストーリーで読者を惹きつけてしまうタイプの作家であり、普段は敬遠しがちな恋愛小説の敷居を低くしてくれるのです。
本作のヒロインは、45歳のバツイチ独身で版画家として活躍する内田咲世子(さよこ)。
3歳年上で画商の三宅卓治という愛人はいるものの、咲世子自身は結婚を諦め、仕事に徹した有能なキャリアウーマンといった感じの女性です。
その咲世子がある日、17歳年下(28歳)の青年・徳永素樹と出会った時から大きく日常が変化してゆくのです。。
登場する人物の年齢から分かる通り、「大人のための恋愛小説」であることはすぐに気付きます。
そして物語の設定も昼メロのようであり、少なくとも若者向けのラブストーリーや爽やかな青春小説の類ではありません。
そもそも恋愛小説を読み慣れている読者であれば、「眠れぬ真珠」というタイトルから雰囲気を推測できるかも知れません。
ともかくありがちな登場人物と設定という素材を目の前に、真正面から切り込んだ恋愛小説と表現できるかも知れません。
もちろんドロドロしたシーンが登場することもあり、読者によっては抵抗を覚えるかも知れませんが私はすんなりと読むことができました。
今の時代、20代後半と40代半ばの恋愛自体は珍しくありませんが、男性作家にも関わらず女性の心理に鋭く迫った描写には説得力を感じます。
ヒロインが私自身の立場とはかけ離れているのはもちろんですが、性別や年齢を超えて共感できるところが小説ならではの魅力であり、新鮮な読了感を得た1冊でした。