レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

本田宗一郎の真実―不況知らずのホンダを創った男

本田宗一郎の真実―不況知らずのホンダを創った男 (講談社文庫)

ホンダ」の創業者といえば本田宗一郎ですが、彼の右腕以上の存在として"実質的にホンダを経営"していのが、藤沢武夫だったことは広く知られています。

本田は会社の実印を藤沢に預け、自身は現場の技術屋に徹し続けました。

もちろんこれは2人の間で了承されていたことであり、本田は藤沢に背中を預けることが出来たからこそ革新的な技術を生むことが可能になり、経営を一任された藤沢の裁量だからこそ2度に渡る大きな経営危機に際して資金繰りできたのです。

タイトルからは分かりにくのいですが、本書は本田・藤沢の生い立ちから出会い、そしてホンダにおける数々のエピソード、引退後の生活に至るまで、元社員たちの証言も交えて迫ったノンフィクションです。

この2人は創業から間もない頃こそ頭を突き合わせて「ホンダ」の未来を構想し続けましたが、成長軌道に乗るにつれ殆ど顔を合わせる機会が無くなり、本田は工場に、藤沢は本社でいることが常でした。

また注目されることの好きな技術屋・本田と、控えめで冷静な経営者・藤沢は正反対の性格であり、そのマネジメント手法や遊び方すら違うものであったため、2人の間には不仲説が噂されたほどです。

実際2人から発せられる命令が正反対であることもしばしばであり、もし同じ場所で働いていたならば衝突を避けられなかったに違いありません。

彼ら2人もそれを充分に認識し、組織のNo1とNo2が正面衝突することを避けるために意図的に距離を置いていたようです。

しかしそれすらも大同小異であり、「ホンダ」を世界的な自動車メーカーに成長させるという2人の目的は完全に一致していました。

普通の企業であれば"2人のトップ"が存在することは考えられませんが、実際に「ホンダ」を成長させることで自分たちの正しさを証明したのです。

何よりも息がピッタリと合っていたエピソードとして、後継者たちに会社経営を託すことを決め、同じタイミングで会社を引退したということが挙げられます。

もちろん2人の間に挟まれ苦労した社員たちもいましたが、同時に彼らも2人の関係や性格をよく理解していました。

光り輝くスポットを浴び、世間から注目され続けた本田宗一郎。
そして実質的に人事や財務において本田以上の権力を持ちながらも、影武者に徹した藤沢武夫の人生を対照的であり、ノンフィクションよりも、まるで小説の物語のような気がしてきます。

私自身も社会人としての月日を経るにつれ、性格や流儀は違えどもお互いの距離を保ちながら認め合い、尊重するといった関係が何となく理解できるようになった気がします。