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ローマ人の物語〈31〉終わりの始まり〈下〉



五賢帝の1人であり哲人皇帝として有名なマルクス・アウレリウスの治世は蛮族の侵入が相次いだ大変な時代でしたが、彼の後を継いだコモドゥスの時代には表面上の平和を迎えます。

しかし皇帝としての素質が欠如していたコモドゥスは、暗殺によってその治世を終えることになります。

これをひと言で「暴君として当然の結末」と片づけることは出来ません。

たとえ素質は無くとも先帝マルクスの長男としての正統性は存在し、またそれを認めたローマ軍団は皇帝コモドゥスの代になろうと忠誠を誓い続けたのです。

つまり唯一の正統性を保持していたコモドゥスの死は、そのままローマ帝国内の内乱勃発に直結し、軍事力を背景にした各地の軍団長や属州長官クラスの人物が4人も同時に皇帝に名乗りを上げるのです。

これは完全なバトルロイヤルであり、この戦いに参加した4人の顔ぶれは以下の通りです。

  • 近衛軍団の支持を背景にしたユリアヌス
  • シリアを中心とした属州の軍団の支持を背景にしたニゲル
  • ブルタニア、ライン河軍団の支持を背景にしたアルビヌス
  • ローマ帝国最大のドナウ河軍団の支持を背景にしたセヴェルス

ちなみに彼ら4人が皇帝に名乗りを上げる前にはペルティナクスが皇帝に就任していますが、ユリアヌスの手によってわずか87日間で暗殺されてしまっています。

さすがにこれだけの人物が同時に登場すると名前を覚えるのも面倒になりますが、結果的にこの帝位争奪戦という名のバトルロイヤルを制するのはセヴェルス1人になります。

ただしこの戦いはカエサルポンペイウスオクタヴィアヌス(アウグストゥス)とアントニウスがローマの覇権のみならず、自らの理想や信条をかけて戦いを繰り広げたような歴史スペクタクル溢れるものではありませんでした。

ただ単にローマ皇帝の座を巡っての争いであり、この戦いに加わった4人の間に大きな政治的信条の違いは存在しなかったのです。

当時のドナウ河流域には、ローマ帝国内でもっとも多くの、そしてもっとも精鋭な軍団が配置されていました。

その軍団の支持を背景に皇帝となったセヴェルスの経歴は、叩き上げの軍人そのものであり、自らの得意分野である軍事によって皇帝としての成果を上げようとします。

まずは軍人の地位と待遇の改善を行い、次に東方のパルティア王国、そして北方のブルタニア(現イギリス)への遠征を実行に移します。

これはマルクス・アウレリウス時代から頻繁になりつつあった外敵侵入の脅威を、積極的な攻勢によって解決しようと試みたものです。

しかしこの遠征によって体を壊したセヴェルスは息子のカラカラに後を託し、真冬のブルタニアで息を引き取ることになるのです。

内乱を収束させてローマ帝国の安全保障を強化したセヴェルスの業績は評価できるものですが、すでにローマの栄光には翳りが見え始めており、その業績があっという間に崩れ去る不安定な時代が到来しつつあったのです。