レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

ローマ人の物語〈33〉迷走する帝国〈中〉



本書ではローマ帝国が混迷する時代に触れられているだけに政情不安が続き、皇帝たちが短い在位で次々と入れ替わってゆきます。

読者も混乱してしまうほど目まぐるしい時代ですが、整理のために本巻で登場する皇帝たちを簡単に紹介してゆきます(カッコ内は在位)。


皇帝マクシミヌス・トラクス(235-238)
生え抜きの軍人皇帝。ゲルマン人相手に積極的に攻勢に出て戦果を上げる。
しかし元老院の支持を失い、内戦に突入した直後に配下の兵士たちによって殺害される。


皇帝ゴルディアヌス1世(238)
皇帝ゴルディアヌス2世(238)
マクシミヌスの対抗馬として元老院が推挙した皇帝であり、2人は父子でもあった。
しかし肝心のローマ軍団からの支持が得られなかったため、アフリカ属州から一歩も出られず反乱を起こしたローマ軍団によって責められ父は自殺、息子は戦死する。わずか半月の在位に終わる。


皇帝パピエヌス(238)
皇帝バルビヌス(238)
元老院がゴルディアヌス父子の次に擁立した皇帝。
マクシミヌスを殺害しローマ入りした軍団たちに愛想を尽かされ、間もなく殺害される。在位は3ヶ月。


皇帝ゴルディアヌス3世(238-244)
ゴルディアヌス1世から見ると孫にあたり、わずか13歳で皇帝に即位する。
有能な実務家ティメジテウスを実質的な宰相として採用したこともあり、ローマ帝国は一時的な平和を取り戻す。
急激に力をつけた新興国ササン朝ペルシアの遠征を敢行するが、ティメジテウスの突然死(病死?)によりローマ軍は瓦解し、その混乱の中で兵士たちによって殺害される。


皇帝フィリッピス・アラブス(244-249)
アラブ人としてはじめてローマ皇帝になった人物。元老院寄りの政策を行うが能力は平凡だった。デキウスとの対決を前にして味方の兵士にすら見捨てられて自殺する。


皇帝デキウス(249-251)
叩き上げの軍人であり、ドナウ軍団の支持を背景に皇帝となる。
軍事の才能は豊かでドナウ河防衛の再編成などを行うも、蛮族との戦闘中に戦死する。


皇帝トレボニアヌス・ガルス(251-253)
ゲルマン民族の中でも強大なゴート族が30万人という大軍でローマ帝国に侵入し、彼らとの間に弱腰な講和を結んだことがきっかけで兵士たちの支持を失い、ヴァレリアヌスとの皇位争奪戦に敗れる。


皇帝ヴァレリアヌス(253-260)
能力主義を取り入れローマ軍指揮官たちの再編成を行う。
そしてシャプール王率いるササン朝ペルシアとの戦いで、前代未聞の皇帝捕囚という事態に陥ってしまう。結局解放されることなく、1年余りのちに病死する。


ここに挙げた皇帝たちは権力を濫用するような暴君では無かったにも関わらず、いずれも天寿を全うすることさえ出来ていません。

しかもローマ軍団の支持を背景にしてない皇帝は短い在位で終わり、叩き上げの軍人出身皇帝ですら兵士たちの衝動的な行動の犠牲となるか、外敵との戦闘で戦死するという運命を辿っています。

これまで「ローマ人の物語」を通じて、カエサルアウグストゥス時代のローマ人たちの隆盛、五賢帝時代の盤石の平和を見てきた読者としては悲しい気持になりますが、この時代を統治した皇帝にとってさえ、過ぎ去った栄光だということを実感していたに違いありません。