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勝海舟と幕末外交

勝海舟と幕末外交 - イギリス・ロシアの脅威に抗して (中公新書)

よく知られているように江戸時代は鎖国政策によって長崎に限ってオランダ、そして明との貿易のみが許されている状態でした。

そこへ1853年にペリー提督率いるアメリカ艦隊が浦賀を訪れ、翌1953年に通商条約を締結することになります。

やがてそれを皮切りに、ロシアイギリスフランスといった世界の列強国が次々と日本を訪れ、国交を開くように迫ってきます。

一方で国内では尊王攘夷熱が高まり、異人を排除しようとする動きが見え始めますが、幕府の高官たちは攘夷派の人々を弾圧し、また時には懐柔しながら一貫して開国の方向へ舵を切り続けることになります。

老中の阿部正弘を皮切りに、井伊直弼安藤信正小栗忠順といった歴代の老中たち、水野忠徳大久保一翁、そして本書のタイトルにもなっている勝海舟を含めて方針や手法にそれぞれ違いはあるものの、幕府側の主要人物たちはいずれも開国路線を続けます。

しかし彼らも無邪気に開国し、貿易を盛んにしてゆくといった単純な考えであった訳ではありません。

もちろん国内の過激攘夷派を刺激したくないといった要因も含まれますが、何より彼らが恐れたのは、隣国の(中国)との戦争に勝利し、領土を借用(実質的な占領)し、経済を牛耳り混乱をもたらした列強国、つまり国交を迫ってきた張本人たちへ対してでした。

幕府の首脳たちは隣国の清が日本と比べて大国であることを充分知っており、その清を打ち負かした相手に日本が勝てるとは思わなかった程度のバランス感覚は充分に持っていたのです。

少なくとも海や海岸線において彼らの持つ蒸気船の機動力と砲撃の攻撃力と飛距離へ対しては到底太刀打ちできず、外国に敗北することは幕府の威信失墜や体制崩壊に直結することになるのです。

しかし開国で一致していた幕府首脳陣たちも決して1枚岩ではありませんでした。

親米派親露派親英派、そしてバランス重視派など、その外交方針は一貫しておらず、政局が変動する度に揺れ動くことにります。

本書はそんな幕末外交の表と裏側を、1861年に起きるポサドニック号事件(ロシア軍艦対馬占領事件)をクライマックスにして解説していきます。

私自身は外交という側面から勝海舟を評価する本だと早合点して手にとった本ですが、幕府全体の外交政策を解説していると本だと表現した方が適切です。

技術も経済力も劣る日本が清と同じ轍を踏まないよう、列強国を相手に回していかに外交に苦心していたのかを東西の文献から、また記録が残されていない空白部分を著者(上垣外憲一氏)の推理で埋めながら丁寧に解説している印象を受けました。

本書の学術的な価値は分かりませんが、歴史ファンにとっては幕末のあまり知られていない側面を肉付けしてくれる1冊だと思います。