レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。


明治の文豪・森鴎外の代表作です。
文庫本で150ページに満たない分量ですが、鴎外の作品としては長編に属する作品ではないでしょうか。

構図は至ってシンプルであり、書生の岡田、高利貸しの末造、そして末造の妾となったお玉という三角関係を描いています(正確には、岡田と末造はお互いの存在を知らないため三角関係と言えないかもしれません)。

作品は岡田の友人であった""の視点から書かれており、この"僕"は若かりし頃の森鴎外自身にほかなりません。

ストーリーも起伏に富んだものではなく、比較的ゆっくりとした時間軸で進行してゆき、青春のいち場面を切り取ったかのような丁寧な描写が印象に残ります。

こうした描写を退屈せずに、読者がゆったりと楽しめるかどうかが明治から大正にかけての文学作品を好きになれるかの境目になるように思います。

構成や進行のペース、印象的なシーンの演出など、すべてが円熟の域に入った鴎外によって計算されいる感があり、舞台となっている明治13年当時に東京の片隅でひっそりと繰り広げられる人間模様を虫メガネで食い入るように見てしまうような感覚に陥ってしまいます。

今だからこそ古くて新しい感覚で読める作品であるともいえます。

森鴎外の作品の中では比較的読みやすく、最初に手にとる作品としてもお薦めです。