レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

赤猫異聞


希代のストーリーテラー」、「平成の泣かせ屋」として知られる浅田次郎氏が2012年に発表した作品です。

彼の本領は現代小説、歴史小説、そして時代小説などジャンルを問わずに発揮されます。

とくに東京生まれ東京育ちという経歴、そして古地図と古文書を趣味にしている浅田氏が描く時代小説は、深い造詣と豊かな想像力が絶妙に融合し、読者自身が江戸時代にタイムスリップしたような気分になれる活気ある作品が多いという印象があります。

本書「赤猫異聞」もまさしくそれに当てはまる作品であり、3人の個性的な主人公が登場します。

1人目は、信州無宿繁松
義理固い親分肌のある深川界隈で知られた侠客です。

2人目は、岩瀬七之丞
千石取り旗本の次男坊であり、無口ですが剣の腕はめっぽう立ちます。

3人目は、白魚のお仙
八丁堀界隈の夜鷹(娼婦)の元締めをしている、男勝りの度胸をもった女性です。

いずれもかつて江戸に住んでいた人びとを象徴するような味付けの濃いキャラクターたちであり、必然的に読者の興味を引かずにはいられません。

綿密な時代考証によって作り上げたリアルな江戸時代を背景に、デフォルメ化された主人公たちが縦横無尽に動き回るといった点がこの作品を魅力的なものにしています。

明治元年、江戸が官軍によって占領されてから3ヶ月後に起こった大火事を中心に物語が展開されます。

3人は伝馬町牢屋敷に重罪人として入牢していましたが、火の手が迫るとともに解き放ちとなります。
江戸時代には大火事によって牢屋敷へ延焼する可能性がある場合、囚人たちを解き放つという慣習があったようで、これが俗に「赤猫」と呼ばれていたようです。

そして鎮火ののちに戻ってくれば罪一等を減じるという処置が取られていたようです。

しかし3人たちに下された処断は

三人のうち一人でも戻らなければ戻った者も死罪、三人とも戻れば全員が無罪

という変わったものでした。

果たして牢から解き放たれた3人はどこへ向い、どのような判断を下すのか?

激動の時代に波乱万丈の人生を歩んできた3人の主人公、そして彼らを取り巻く牢役人たちのダイナミックな物語に最初から最後まで魅了されてしまうエンターテイメント型時代小説です。