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引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

勝海舟 この人物の大きさを見よ!


津本陽氏の歴史小説「勝海舟」を読んだついでに手にとった1冊です。

目次には次のような文句が並んでいます。

  • 第一章 敵も味方も惹きつける「男の魅力」とは何か?
  • 第二章 この"不屈の闘志"こそ、海舟という男の「原点」だった!
  • 第三章 この「胆力」、この「眼力」を見よ!
  • 第四章 海舟の夢、破れたあと - この信念があればこそ!
  • 第五章 「知略」と「剛毅」- 海舟はいかに使いわけたか?
  • 第六章 男の本懐 - 人が黙ってついてくるこの「人物の大きさ」

本書は三笠書房の知的生きかた文庫シリーズとして出版されていますが、タイトルと目次を見る限り、勝海舟を教材とした啓発本という印象を受けます。

結果だけを見れば、貧乏旗本から幕府軍の最高責任者(幕府陸軍総裁)にまで出世した人物ですが、勝海舟を社会人の出世や処世術の参考として見るのは相応しくありません。

なぜなら勝は何度も命を狙われ、また幾度も罷免や左遷を経験しており、幕末という激動の時代だからこそ後世に名を残した人物だからです。

むしろ坂本龍馬大久保利通のように暗殺されなかったことが幸運でさえあり、薄氷を履むが如しの人生はとても万人に勧められるものではありません。

それでも本書を手に取ったのは、勝海舟という人間がどのように啓発本で紹介されているかに興味があったからですが、結論からいうと啓発本としては殆ど期待外れの内容でした。

著者の主観がどのくらい本書に盛り込まれているのかを期待していたのですが、基本的に勝海舟の業績を時系列に紹介し、そこに簡単かつ無難なコメントが添えられているといった程度です。

一方で勝の業績をコンパクトに整理し、分かり易く解説しているという点では予想外の完成度の高さです。

結局は著者と編集の意図がうまく噛み合っていないだけのような気もしますが、勝海舟の半生を手っ取り早く知りたい人にとっては、Wikipediaよりもはるかに頭に入りやすく、格好の入門書になっていると思います。

難しい専門書や、長い歴史小説を読みたくない人は本書を読んで見るのも悪くありません。