レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

京都ぎらい


日本の伝統的な文化が息づく千年の都・京都

連日観光客で賑わう京都ですが、そんな伝統ゆえの"敷居の高さ"が存在することは関東に住む私からもなんとなく分かります。

本書は京都で生まれ育った井上章一氏が、"いやらしさ"を通じて京都の文化論を語るという変わった切り口をとっています。

著者は嵐山で有名な京都右京区の嵯峨で生まれ育ちましたが、洛中に住む人から見ると、洛外の田舎者という軽蔑の目で見られるという経験をしています。

つまり同じ京都市に住んでいても、歴然とした一種の"中華思想"、"エリート意識"が存在するのです。

本書の中では明確な線引きがされている訳ではありませんが、確実に洛中といわれる範囲は上京区、中京区、下京区くらいであり、右京区、左京区、山科区、伏見区あたりは確実に洛外というレッテルが貼られるそうです。

似たようなものに東京23区内にも高級住宅地に住む金持ちとしてのステータス、下町に住む江戸っ子としてのステータスらしきものは存在しますが、もともと東京には地方出身者が多いこともあり、千年もの伝統に裏打ちされた京都ほど重苦しい雰囲気はありません。

著者は洛中人をつけあがらせる要因の1つに、東京を中心としたテレビや雑誌のメディアが事あるごとに洛中の神社仏閣や老舗料亭などを持ち上げる特集がいけないと指摘しています。

たしかに東京に住む人が京都へのあこがれを抱く感覚は理解できますが、面白いことに京都の隣に位置する大阪には、そうした京都を持ち上げる傾向が見られないことです。

さらに本書では、京都の持つ坊さんや舞妓さんの文化、有力寺院の持つ大きな実力、そして伝統行事を通した著者の歴史観まで幅広く取り扱ってゆきます。

繰り返しになりますが、京都の魅力を紹介する本は数多く存在しますが、本書は京都のいやらしさを紹介しています。

ただしいずれの本も論じているのは、いずれも京都の伝統や歴史、文化であり、視点を変えるユニークさが本書をベストセラーに押し上げたのです。