レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

出雲国誕生


7世紀はじめに推古天皇のもと聖徳太子らが中心となり、中国の文化や制度が積極的に取り入れられました。

これは国を治めるためにで実施されている律令制を日本に導入しようとする試みでした。

政争によりその試みは道半ばで挫折しますが、それは一時的なものに過ぎず、聖徳太子の死後も律令制国家への体制構築は着々と進みんでゆきました。

そして701年、天武天皇を中心として大宝律令が発布されます。

これは日本ではじめて全国区の法と制度が確立したことを意味し、中央には平城京が建設され、地方へ国司が派遣されました。

ちなみに今なお続く元号制度も大宝律令により定められたものです。

一方で歴史学、考古学上においては、制度が施行された詳しい実態は解明途中という段階です。

713年、元明天皇によって60余りの諸国に、地名の由来や特産物、古老が語る伝承などを報告する風土記を中央政府へ提出するよう命じますが、今ではその殆どが失われ、出雲国、常陸国、播磨国、豊後国、肥前国が残るに過ぎません。

中でも写本ではあるものの、ほぼ完全な形で伝わるのは「出雲国風土記」だけであり、この記録の研究と現地で行われた発掘調査を元に、古代の地方都市成立の実態を解明しようと試みたのが本書です。

地方の中心都市には政治の中心となる国府が置かれ、その周辺には国分寺・国分尼寺軍団工房などが設置され、真っすぐで幅の広い街道が整備されました。

こうした施設の発掘調査は出雲(島根県松江市)だけでなく、風土記が失われた日本各地でも同様に行われており、本書ではこうした研究成果も併せて紹介しています。

著者の大橋泰夫氏は島根大学の教授として現地の発掘調査にも関わっており、本書ではこれら施設の構造から配置関係、また利用の実態などを丁寧に解説しています。

それだけに専門的な内容が多いと思われますが、これを読者が丁寧に読み込んでゆくことで教科書だけでは分からない古代国家の姿がリアルに浮かび上がってくるのです。