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引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

縄文時代: その枠組・文化・社会をどう捉えるか?


本書は、国立歴史民俗博物館が編集した第99回歴博フォーラム(2015年開催)「縄文時代: その枠組・文化・社会をどう捉えるか?」の記録集です。

つまり縄文時代を解説した書籍ではなく、パネリストたちが最新の研究成果について講演を行った内容が収録されています。

私の持つ縄文時代とは、竪穴式住居に住み縄文土器土偶を制作し、狩猟漁猟採集によって食料を自給していた素朴ながらも平等な社会というかなり単純なイメージを持っていました。

一口に縄文時代といっても1万年以上も続いた時代であり、本書の中でも指摘されている通り、そうしたイメージは21世紀の平成時代と8世紀の平安時代を同じに見てしまう危険性があります。

そして実際の縄文時代は、その日暮らしをしていた貧しい人々ではなく、優れた技術と文化を持ち、少なくとも複雑な社会的を構成する過程にあった多様な時代であったことが判明しています。

第99回歴博フォーラムで登壇した10人の講演内容は以下の通りです(カッコ内は登壇者)。

  • 縄文時代はどのように語られてきたのか(山田 康弘)
  • 縄文文化における北の範囲(福田 正宏)
  • 縄文文化における南の範囲(伊藤慎二)
  • 東日本の縄文文化(菅野 智則)
  • 中部日本の縄文文化(長田 友也)
  • 西日本の縄文社会の特色とその背景(瀬口 眞司)
  • 環状集落にみる社会複雑化(谷口 康浩)
  • 縄文社会の複雑化と民族誌(高橋 龍三郎)
  • 縄文社会をどう考えるべきか(阿部 芳郎)
  • 総括-弥生文化から縄文文化を考える(設楽 博己)

一括りに縄文式と言われますが、実際にはお互いの地域が影響しあって多様な土器が生まれたこと、東日本と西日本では地域間の交流がありながらもその生活様式が異なること、また中央に墓(または儀式の場)を配置した大規模な環状集落が営まれていたことなどが紹介されています。

本書には発表で実際に使用された写真や図なども掲載されており、一般読者にも充分に伝わる内容になっています。

また各自の講演テーマも相互に関係し合っているため、一貫性を持って読むことができます。

つまり第一線で活躍する研究者による最先端の研究成果を誰でも読める形にした本書は、贅沢な1冊なのです。