レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

管見妄語 始末に困る人


本書は藤原正彦氏が週刊新潮に連載したエッセー「管見妄語」を文庫本化したものです。

"管見"とは視野の狭いこと、"妄語"とは嘘つきという意味ですが、数学者、教授として豊富な海外留学の経験もある著者の謙遜であることは言うまでもありません。

個人的には読んでいない藤原正彦氏のエッセーを見かけると、何も考えずに手に入れるほどファンなのです。

エッセーとは自身の経験や心情を吐露しなければ成り立たない分野ですが、本書も例外ではありません。

一世代以上は年齢が離れているにも関わらず、藤原氏の言葉は私に新しい視点を与え、納得のできる主張をしっかり伝え、また楽しませてくれます。

ともかく私にとって藤原氏に比肩できるエッセイストは中々いません。

週刊誌へ掲載されていたこともあり、エッセーの話題は新鮮な時事を扱ったものが多くあります。

何より収録されているエッセーは東日本大震災を挟んで連載されていたこともあり、未曾有の災害が発生した当時の著者の考えをよく知ることができます。

ニュースから流れる被災地の状況を気の毒に思い、著者自身何をやっても気の晴れない日々が続いたこと告白しています。

一連の著作の中で"惻隠の情"、つまり弱者や敗者を憐れむ心を日本人の美徳と主張してきた著者ですが、多くのイベントや番組などが自粛モードに入る中、あえて涙を振り払い庶民は全力で消費活動を活発にしようと呼びかけています。

「浮かれている場合か」、「不謹慎だ」という言葉がある中、本書はイギリス留学中に学んだユーモアの大切さを読者たちに伝えてくれます。

イギリスではユーモアは何よりも大切にされ、それは世の中の不条理を吹き飛ばす批判精神であり、前を向いて楽しく生きてゆくための欠かせない要素と考えられています。

著者のユーモアに読者は勇気づけられ、明日を元気に生きてゆくための心のビタミンを得ることができるのです。