レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

人もいない春

人もいない春 (角川文庫)

「廃疾かかえて」に続き西村賢太氏による短編集です。


収録されいるのは以下の6作品。

  • 人もいない春
  • 二十三夜
  • 悪夢
  • 乞食の糧途
  • 赤い脳漿
  • 昼寝る

1、2作品目は著者の若い頃が書かれており、忍耐が無いために1つの職場を長く続けられなかった経験、無謀な挑戦の末に叶うことなく終わった高望みの恋の話などが掲載されています。

3作品目は、都会の建物に住むネズミを擬人化した作品となっており、唯一私小説ではない異色の作品です。

そして後半の3作品は"秋恵シリーズ"ともいえる著者の同棲時代を題材とした私小説です。

西村氏の作品は2作品目ですが、全くブレることのない自らのダメ人間さをひたすら客観的に綴っています。

秋恵への罵詈暴言といった貫多の暴走は相変わらずですが、今回は多少なりともお互いを思いやる場面も描かれており、前作よりも殺伐としたイメージが払拭されている印象を受けました。

やはり誰もが心の中に抱えている"欲望"、"衝動"、"怠惰"といったものをテーマにしているところは一貫しており、著者の小説への変わらぬ姿勢を感じます。


自ら"私小説家"と称していますが、今後もこのスタイルを貫き通すのか気になるところです。

個人的にはミステリー小説の分野を開拓してゆけば、独特の雰囲気&味わいのある作品を書いてくれそうだと感じます。