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ローマ人の物語〈12〉ユリウス・カエサル―ルビコン以後(中)

ローマ人の物語〈12〉ユリウス・カエサル―ルビコン以後(中) (新潮文庫)

ファルサルスの会戦ポンペイウスに勝利したカエサルは内乱の勝利者となり、共和政ローマにおける最高権力者となります。

当時の一流の知識人キケロはカエサルの友人でありながら、その政治的信条はカエサルとまったく逆であり、そのため内乱ではポンペイウス側に走った1人です。

カエサルが勝利したことによって、その報復を恐れて極度に神経質になっていたキケロでしたが、凱旋したカエサルはキケロを見つけるや抱擁し、親しい言葉をかけられるのです。つまり報復に至ってはまっくの杞憂に終わるのです。

知識では同格の2人であってもカエサルの器の大きさを伝えるエピソードですが、カエサルはキケロに限らずポンペイウス側に回ったローマ人をすべて許し、元の地位を保証さえしたのです。

スッラのように勝利者になった後に「処罰者名簿」を作成し、多くのローマ人の粛清を行ったのに比べて対照的であったのは、前回紹介した通りです。

内乱に決着がついた後もカエサルは、スペイン、アフリカ、エジプト、小アジアと遠征を続けますが、「来た、見た、勝った」に代表されるようにポンペイウス亡き後のカエサルにとって脅威になる敵はどこにも存在しませんでした。

そしてローマに凱旋したカエサルは独裁官として本格的に国家改造に取り組みます。

カエサルは軍の総司令官としても一流でしたが、政治家としても非凡な才能もっており、彼が"天才"と評される所以です。

本書で触れられているカエサルの改革は以下にように及びます。

  • 暦の改定
  • 通貨改革
  • 政治改革(元老院/市民集会/護民官/終身独裁官)
  • 金融改革
  • 行政改革
  • 属州統治
  • 司法改革
  • 社会改革(福祉政策/失業者対策・植民地政策/組合対策/治安対策/交通渋滞対策/清掃問題/贅沢禁止法)
  • 首都再開発

こうした政策をわずか数年の間に、しかも各地の戦闘を指揮しながら進めるという離れ業をやってのけるのです。

しかもカエサル1人の意志からこれらの改革が成されてゆくということは、少数寡頭の共和政ではなく、絶対的な権力を1人に集中させる帝政への布石となり、のちの時代には「カエサル」という単語そのものが皇帝を意味するようになるのです。

一方で長年に渡りローマの政体であった共和政を信奉する保守派にとってカエサルは憎むべき相手であり、またカエサル自身が"寛容(クレメンティア)"を体現する人物として不満分子を詮索することもなく、身の回りの警護にすら殆ど気を使わなかったことが天才に悲劇をもたらすことになるのです。