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ローマ人の物語〈21〉危機と克服〈上〉

ローマ人の物語〈21〉危機と克服〈上〉 (新潮文庫)

13年に及ぶ皇帝ネロの統治が失敗に終わり、ローマ帝国は1年間にわたる内乱時代へ突入します。

ネロの自死の翌年つまり紀元69年には、1年間で3人もの皇帝(ガルバ、オトー、ヴィテリウス)が次々と現れては消えてゆくのです。

ほぼ同時代に生きた歴史家タキトゥス「すんでのことで帝国の最後の1年になるところだった」と評したほどです。

ローマ帝国皇帝は現代の総理大臣や大統領よりもはるかに強力な権力を持っていたことを考えると、3人もの(ネロを含めれば4人)の皇帝が次々と実質的に殺害されるという事態は、ローマ帝国自体が崩壊し分裂する危機を迎えたことを意味します。

初代皇帝アウグストゥスが登場してから100年以上も平和を享受してきたローマ帝国でしたが、それは血筋による皇帝の権力と権威が順調に受け継がれていた時代でもあったのです。

しかし血筋だけの継承では正統性は保てても、皇帝の統治能力の保証まではしてくれません。

つまり失政や悪政を重ねた皇帝には退場してもらい、実力によって皇帝の座を勝ち取る時代が到来したのです。

ただしローマ帝国にとって災難だったのは、ローマ皇帝の座を勝ち取った人物たちの支持が限定的かつ一時的なものであったこと、つまりその地位に就くやいなや皇帝としての統治能力不足が露呈してしまったことです。

それでも1年間に登場した3人の皇帝は決して無能ではなく、それどころか軍の司令官として、または属州の統治者として相当に優秀な人物でしたが、広大なローマ帝国の混乱を収拾する次期最高権力者としての力量までは備えていなかったのです。

まずはじめに登場したガルバは72歳という高齢のせいか、皇帝としての政策は消極的なものばかりであり、能力ではなくライバルを排除する保身人事を行ったことが致命的でした。
結果として、もっとも身近な近衛軍団のクーデータによりあっけなく殺害されてしまいます。


続いて皇帝に就任したオトーは年齢は30代で活気のある才気溢れる人物でした。
しかし一方では独断的な傾向もあり、それがよりによって軍団の経験が無かった戦略と戦術の大事な場面において現れてしまい、優秀な指揮官を部下に持ちつつもそれを活用することも知らぬまま戦闘に敗れ、自ら死を選ぶ結果となります。


最後に3人目として登場したヴィテリウスはローマ最強をうたわれた「ライン軍団」という軍事力を背景に持っていましたが、敗者への過酷な処罰という致命的な誤りを犯します。
内乱の敗者は異国人ではなく同じローマ市民たちであり、ローマ帝国の最高権力者となる上で支持基盤となる同国民からの恨みを買うほど愚かな行為はなく、これが後にそのまま自らの身に振りかかるのです。


そうした状況の中でもローマ帝国の命運は尽きることはありませんでした。

ローマ帝国にはまだまだ底力が残ってことを証明するかのように、国家の危機にあって新たな実力者が登場するのです。

その人物こそ東方でユダヤ戦役を遂行している司令官であり、のちに9人目の皇帝となるヴェスパシアヌスです。