ローマ人の物語〈15〉パクス・ロマーナ(中)
カエサルは55歳で暗殺されましたが、彼が活躍し始めたのは40歳を過ぎてからです。
しかもガリア戦記で8年間を費やし、その後の内戦でローマを平定するのに5年もの年月を要しています。
それでもカエサルは帝政ローマへの青写真となる多くの改革を手掛けましたが、アウグストゥスは18歳でカエサルの後を継ぎ、アントニウスとの戦いを制した時点でも33歳でした。
アウグストゥスの享年は77歳のため、実に40年以上に渡ってカエサルの後を継いで帝政ローマの基礎を築き上げる時間があったのです。
分かり易い例でいえば、カエサルはカリスマ性を持った創業者です。
彼は波瀾万丈の人生の中で起業を行い、会社の基礎やビジョンを築き上げます。
アウグストゥスは2代目社長として初代社長のビジョンを受け継ぎ、会社のさらなる飛躍を目指します。
設備投資や福利厚生、企業のルール作りにじっくりと取り組み、財政の健全化など効率化を図ることで持続性のある組織作りに腰を据えて取り組むことができたのです。
例えば軍事を担当するアグリッパはローマ帝国の領土を広げるための戦いではなく、その国境をより確かなものにするための戦いが主な役割となりました。さらにはローマ兵士を動員した公共工事にも熱心であり、首都ローマ以外の属州へのインフラ整備にも熱心に取り組みました。
カエサルやアウグストゥスが確立した方針は、ローマ帝国は領土を闇雲に広げることで統治力が弱まる弊害を早くも見抜き、防衛ラインを確立した上で平和と繁栄をもたらすといったものでした。
たとえばマケドニア帝国やモンゴル帝国がひたすら領土拡大(他国への侵略)を繰り返した挙句、短い期間で国の分裂と崩壊につながりますが、この2人はそれをまるで経験してきたかのように知っていたのです。
本書はアウグストゥスの統治中期(紀元前18年~前6年)、年齢では45~57歳の頃にスポットを当てています。
カエサルのような波瀾万丈な人生とは違い、一見すると政治と政策に専念するアウグストゥスの毎日は地味に見えます。
しかしその業績が実感を伴ってローマへ平和をもたらしたことを市民たちや元老議員さえも認めざるを得えませんでした。
本巻にはアントニウスに侮られた頃の青年オクタヴィアヌスの面影はなく、ローマ帝国の最高権力者としての風格を完全に身につけたアウグストゥスが描かれているのです。