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ローマ人の物語〈18〉悪名高き皇帝たち(2)

ローマ人の物語〈18〉悪名高き皇帝たち(2) (新潮文庫)

ティベリウスは50代半ばを過ぎてローマ皇帝となりますが、アウグストゥスに負けず長命だったため、その治世は20年間にも及びます。

本書の前半では、ティベリウス治世の後半10年間に触れられています。

ティベリウスはその10年間を帝国の中心であるローマを離れ、ナポリから30km離れたカプリ島の別荘を中心にローマ帝国を統治することになります。

ローマの元老院に半ば失望し、そして家庭内での不和に耐えられなくなったからと言われていますが、内向的で1人で熟考するタイプのティベリウスは、ローマの喧騒を嫌い景色が良く温暖なカプア島へ逃避することで精神的なバランスを保とうとしたのかも知れません。

しかも民衆たちの前に姿を現さないどころか、相手が執政官や元老議員であろうとも滅多に会わず、家族の葬儀にさえローマに戻らないという徹底したものでした。

それでもティベリウスの元へあらゆる情報が正確かつ迅速に届けられる通信網を張り巡らせ、彼の手によるローマ帝国の統治は殆ど完全に行われたのです。

よく現場は大事だと言われますが、若い頃から最前線でローマ軍を指揮してきた経験、壮年時代にアウグストゥスの右腕として活躍した経験、皇帝として10年間のローマ統治の経験を積み重ねた60代半ばに達したティベリウスは、ローマ中でもっとも熟練した指導者でもあったのです。

コロッセウムの崩壊事故、ローマの中心で起こった火災、金融危機、東方パルティア王国の不穏な動きに至るまで、すべてティベリウスは遠隔からの指示により的確かつ迅速に解決しています。

それでも民衆の前に姿を現さず娯楽も提供しないティベリウスは、市民からは不人気であり続けたのです。

民衆に喜ばれる、例えば減税や盛大な催し物など人気取りの政策は殆ど行わず、国内外の安全保障や公共インフラの修復、財政の健全化といった地道で根気が求められる政策をやり続けたティベリウスは、現代であっても評価されるべき政治家に違いありません。

著者はティベリウスを次のように評価しています。

ティベリウスは何一つ新しい政治をやらなかったとして批判する研究者はいるが、新しい政治をやらなかったことが重要なのである。アウグストゥスが見事なまでに構築した帝政も、後を継いだ者のやり方しだいでは、一時期の改革で終わったにちがいないからだ。アウグストゥスの後を継いだティベリウスが、それを堅固にすることのみに専念したからこそ、帝政ローマは、次に誰が継ごうと盤石たりえたのである。

本巻の後半では、この盤石の度合いを検査するかのような行為を次々と行う若き皇帝が登場します。

それはティベリウスの後を継ぎ第三代皇帝となったカリグラです。

25歳という若さで皇帝となりますが、人気の無かったティベリウスの反動と悲劇の英雄スパルタクスの息子という血筋もあり、民衆や元老議員たちの圧倒的な支持がありました。

加えてカリグラはティベリウスとは正反対の人気取り政策、つまり減税、剣闘士大会、戦車競技、演劇など民衆の喜ぶイベントを次々と催します。

また自らを神格化することを求め、ゼウスやポセイドンのコスプレまでする徹底ぶりです。

当然の帰結としてティベリウスが蓄えた国庫はあっという間に底をつき、しかも先を見据えない減税の影響もあって、あっという間に金策に走らなければならない(=増税しなければいけない)結果となるのです。

神格化されたカリグラはやがて増長して傲慢さを隠せなくなり、近隣同盟国との外交にも悪影響をもたらします。

大国ローマ帝国の最高権力者としての毎日を謳歌していたカリグラですが、その治世は3年10ヶ月で呆気なく終わりを迎えます。

それはもっとも信頼していた近衛軍団の大隊長(カシウス・ケレアとコルネリウス・サビヌス)によって暗殺されてしまうからです。
そして、その頃にはとっくに人々の熱狂的な支持も冷めていたのです。

若くオシャレで演説も得意で、さらに頭も悪くなかったカリグラは、俳優であれば絶大な人気を誇り続けたかも知れませんが、ローマ皇帝に必要な政治家としてのバランス感覚、将来を見通す力が致命的なまでに欠如していたのです。