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ローマ人の物語〈17〉悪名高き皇帝たち(1)

ローマ人の物語〈17〉悪名高き皇帝たち(1) (新潮文庫)

副題にある「悪名高き皇帝たち」について、著者は次のように語っています。

彼ら皇帝たちとは同時代人のタキトゥスを始めとするローマ時代の有識者たちと、評価基準ならばその延長線上に位置する近代現代の西欧の歴史家たちの「採点」の借用であって、これには必ずしも同意しない私にすれば、反語的なタイトルなのである。
平たく言えば、悪帝と断罪されてきたけどホント?というわけですね。

著者はこの根拠を、彼らが皇帝を努めていた期間においてローマ帝国は、安全保障の面でも経済的にも平和と繁栄を謳歌し続けたことを根拠に挙げています。

本巻では、アウグストゥスによって後継者に指名された第二代皇帝ティベリウスに触れられています。

ティベリウスは、実力的にも後継者の序列としても皇帝にもっとも相応しい人物であり、しかもバトンタッチを受けた時点で56歳という年齢も人間としての成熟度を重視するローマ人にとって安心できる年齢でした。

1点だけ難があるとすれば、ティベリウスは内向的で学者肌の性格であり、世間からの人気取りには興味を示さない性格だったのです。

カエサルは性格含めて存在そのものが陽気であり、自然と群衆の中心にいるような人物でした。

アウグストゥスにはアントニウスという強力なライバルが存在していたこともあり、性格はティベリウスに似ていたものの、必要に迫られて剣闘士大会の主催、公共工事、そしてロマ市民への一時金の振る舞いなど、人気取りのための政策には熱心でした。

本書のティベリウスは、実力は充分でもまったく出世欲も名誉欲も無い社員が先代の養子という理由だけで望んでもいない社長に指名されてしまった姿を連想させます。

しかもそれはローマ帝国は世界を席巻する大企業でもあったのです。

ティベリウスは「誠心誠意」を絵に書いたような性格であったため、元老院と協調しながら政策を勧めようとしますが、共和政ローマ崩壊の本質であり、カエサル、アウグストゥスによってさらに弱体化してしまった質の低下した元老院に合理的で本質的な問題解決の能力は残されていませんでした。

それでもティベリウスには、人材を見抜く力があったため属州の統治は平和であり続け、アウグストゥスが築いた帝政ローマの地盤をさらに強固にしてゆきます。

また2人の息子(正確には甥であり養子)のドゥルーススゲルマニクスはいずれも軍事の才能に恵まれ、ローマ兵士たちが起こしたストライキを鎮め、ゲルマン人のとの戦いを有利に進める活躍を見せます。

とくにゲルマニクスは先帝アウグストゥスに期待をかけられ、むしろティベリウスはゲルマニクスへ次期皇帝をバトンタッチするまでの中継役と見られており、ティベリウス自身もそれを認めていたような感さえありました。

しかし運命は非常であり、ドゥルーススはゲルマニア遠征先での事故によって、ゲルマニクスは小アジアで病気によって亡くなってしまうのです。

さらにゲルマニクスの未亡人となったアグリッピーナとは険悪な状態となり、ローマ帝国の頂点に立つティベリウスは元から民衆からの人気はありませんでしたが、家庭内でも孤立を深めてゆくのです。

それでもティベリウスは悲哀を他人に見せることなく、ローマ帝国を統治するという重責を一時も忘れることは無かったのです。