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ローマ人の物語〈20〉悪名高き皇帝たち(4)

ローマ人の物語〈20〉悪名高き皇帝たち(4) (新潮文庫)

クラウディウスを毒殺したアグリッピーナは、予定通り息子のネロをローマ皇帝の地位に就けることに成功します。

カリグラは25歳での皇帝就任でしたが、ネロに至っては16歳で皇帝となるのです。

後世からは"暴君ネロ"として有名になりますが、果たして本当にそうだったのかを著者はネロの治世を詳細に掘り下げることで真相に迫ってゆきます。

16歳の少年がローマ帝国の最高権力を手に入れたところで果たしてその責務を果たせるのか誰もが疑問を抱くに違いありません。

幾分かの若さゆえの軽率な行動はあったものの、全体として見ればネロの内政や外政はまずまずの成果を上げることになります。

それはネロ自身は少年の頃から英才教育を受けており、教養や知識の水準であれば同年代の少年たちと比較しても高かったこと、そしてネロの家庭教師でもあり元老議員でもあった当時の一流の知識人セネカがブレーンとしてネロを補佐していたからです。

さらに近衛軍団の長官であるルフスも忠実な武人であることも、ネロの地位を安泰なものにしていました。

たとえば西の大国パルティア王国との軍事・外交に渡る問題は、有能なコルブロ将軍の適切な処置の成果もあり、ネロの達成した偉業として讃えられます。

一方でネロは少年から青年に成長する過程で、そしてローマ皇帝として並ぶもののない権力を手に入れたこともあり、皇帝の母としてネロへ干渉するアグリッピーナへ反抗するようになります。

一般の家庭であれば息子による母親への反抗期で済まされますが、これは皇帝とその母親という権力を持った者同士の争へと発展し、ネロは母親を遠ざけるだけには留まらず殺害してしまうという悲劇的な結末を迎えます。

ネロが25歳の時にはルフスが病死し、セネカが老齢を理由に引退するに及んで彼の歯車がさらに狂い始めるです。

本質的に感受性の強いナイーブな性格であり、また世間からの賞賛を集めたいという衝動もあってか、皇帝ネロは突如として吟遊詩人としてデビューすることになります。

しかし竪琴をかき鳴らしながら劇場へ詰めかけた民衆の前で歌う皇帝の姿は、好奇心を集めることは出来ても、尊敬を得ることは無かったのです。

それでも吟遊詩人に熱中するだけであれば後世から"暴君"と呼ばれることはありませんでした。

著者はそれを後世のローマ皇帝と比較してもその規模は小さかったにも関わらず、ネロがローマ皇帝としてはじめてキリスト教弾圧を行い、加えてキリスト教が後世に絶大な影響力を及ぼしたことを理由に上げています。

民衆の目線を気にしつつも皇帝の暗殺未遂事件が相次いだこともあり、ネロは疑心暗鬼に苛まれるようになります。

その延長線上として皇帝権力の濫用により、前線の司令官を無実の罪で処刑するという行為に及んだ時点で、ガリア人の反乱、そしてイベリア半島(現スペイン・ポルトガル)の司令官が決起してローマへ反旗を翻すことになります。

やがて民衆からも元老院からも見放されたネロは、自殺することによって13年に及んだ自らの治世に幕を閉じるのです。

本書で紹介されている決起したガリア人ヴィンデックスによる激は、ネロが晩年にどのように見られていたかを分かり易く伝えてくれます。

「ネロは帝国を私物化し、帝国の最高責任者とは思えない蛮行の数々に酔いしれている。母を殺し、帝国の有能な人材までも国家反逆の罪をかぶせて殺した。そのうえ、歌手に身をやつし、下手な竪琴と歌を披露しては嬉しがっている。帝国ローマの指導者にはふさわしくないこのような人物は、一刻も早く退位させるべきであり、それによって、われわれガリア人を、そしてローマ人を、いや帝国全体をも救うべきである」

ネロの死によってローマは再び内乱の時代を迎えることになるのです。。